はじめに (対象読者・この記事でわかること)
この記事は、ArduinoやESP8266を利用した開発経験がある方、特にWiFi通信で大きなデータを扱いたい方を対象としています。ESP8266のWiFiライブラリであるESP8266WiFi.hを使ってHTTP GETリクエストを送信する際に、1KB超のデータが取得できない問題に直面した経験がある方に特に役立つ内容です。
この記事を読むことで、ESP8266WiFi.hで1KB超のデータ取得に失敗する問題の根本原因がわかり、MTU値とMSS値の確認方法と設定方法を学べます。また、実際のサンプルコードと設定変更の手順を通じて、問題を解決する具体的な方法を習得できます。
前提知識
この記事を読み進める上で、以下の知識があるとスムーズです。
- Arduino IDEの基本的な使い方
- ESP8266ボードの基本的な知識
- HTTP通信の基本的な理解
- ネットワーク用語(MTU、MSSなど)の基本的な知識
ESP8266WiFi.hとHTTP通信の基本と問題の概要
ESP8266は、安価な価格と豊富なリソースから多くのDIYプロジェクトやIoTデバイスで利用されています。ESP8266WiFi.hライブラリは、このESP8266チップをWiFiネットワークに接続し、インターネット通信を行うための強力なツールです。
しかし、このライブラリを使用してHTTP GETリクエストを送信する際に、1KB(1024バイト)を超えるデータを取得しようとすると、通信が途中で切断される問題が発生することがあります。これは、ESP8266のデフォルト設定におけるネットワークパケットサイズの制限が原因で発生します。
この問題の背景には、MTU(Maximum Transmission Unit)とMSS(Maximum Segment Size)というネットワークパラメータがあります。MTUは、ネットワークで一度に送信できるデータの最大サイズを示し、MSSはTCPセグメントの最大サイズを示します。ESP8266のデフォルト設定では、これらの値が小さく設定されており、大きなデータの送受信に支障をきたすことがあります。
具体的な問題の再現と解決策
ステップ1:問題の再現
まず、問題を再現するための簡単なスケッチを作成してみましょう。以下のコードは、指定されたURLからデータを取得し、シリアルモニタに出力するものです。
Cpp#include <ESP8266WiFi.h> #include <ESP8266HTTPClient.h> const char* ssid = "your_SSID"; const char* password = "your_PASSWORD"; void setup() { Serial.begin(115200); WiFi.begin(ssid, password); while (WiFi.status() != WL_CONNECTED) { delay(500); Serial.print("."); } Serial.println("\nWiFi接続完了"); if (WiFi.status() == WL_CONNECTED) { HTTPClient http; http.begin("http://example.com/large-data.txt"); // 1KB超のデータを返すURL int httpCode = http.GET(); if (httpCode > 0) { String payload = http.getString(); Serial.println("取得したデータ:"); Serial.println(payload); Serial.printf("データサイズ: %d bytes\n", payload.length()); } else { Serial.printf("HTTPリクエスト失敗: %s\n", http.errorToString(httpCode).c_str()); } http.end(); } } void loop() { }
このスケッチを実行すると、1KBを超えるデータを取得しようとすると、データが途中で切断されてしまうことがあります。シリアルモニタには「取得したデータ:」の後に不完全なデータしか表示されず、データサイズも1KBに満たないことが確認できます。
ステップ2:MTU値の確認方法
MTU値は、ネットワークで一度に送受信できるデータの最大サイズです。ESP8266のデフォルトMTU値は通常、1492バイトに設定されています。この値を確認するには、以下のコードを使用します。
Cpp#include <ESP8266WiFi.h> const char* ssid = "your_SSID"; const char* password = "your_PASSWORD"; void setup() { Serial.begin(115200); WiFi.begin(ssid, password); while (WiFi.status() != WL_CONNECTED) { delay(500); Serial.print("."); } Serial.println("\nWiFi接続完了"); // 現在のMTU値を取得 int currentMTU = wifi_get_mtu(WIFI_IF_STA); Serial.printf("現在のMTU値: %d bytes\n", currentMTU); } void loop() { }
このコードを実行すると、現在設定されているMTU値がシリアルモニタに表示されます。通常、この値は1492バイトですが、ルーターやアクセスポイントの設定によっては異なる場合があります。
ステップ3:MSS値の確認方法
MSS(Maximum Segment Size)は、TCPセグメントの最大サイズを示します。MTU値からIPヘッダー(20バイト)とTCPヘッダー(通常20バイト)を引いた値がMSSになります。ESP8266のMSS値を確認するには、以下のコードを使用します。
Cpp#include <ESP8266WiFi.h> const char* ssid = "your_SSID"; const char* password = "your_PASSWORD"; void setup() { Serial.begin(115200); WiFi.begin(ssid, password); while (WiFi.status() != WL_CONNECTED) { delay(500); Serial.print("."); } Serial.println("\nWiFi接続完了"); // 現在のMSS値を取得 int currentMSS = wifi_get_mss(WIFI_IF_STA); Serial.printf("現在のMSS値: %d bytes\n", currentMSS); } void loop() { }
このコードを実行すると、現在設定されているMSS値がシリアルモニタに表示されます。通常、この値は1452バイト(1492 - 40)になりますが、環境によっては異なる場合があります。
ステップ4:MTU値とMSS値の設定方法
1KB超のデータを取得するためには、MTU値とMSS値を適切に設定する必要があります。以下に、これらの値を設定する方法を示します。
Cpp#include <ESP8266WiFi.h> #include <ESP8266HTTPClient.h> const char* ssid = "your_SSID"; const char* password = "your_PASSWORD"; void setup() { Serial.begin(115200); WiFi.begin(ssid, password); while (WiFi.status() != WL_CONNECTED) { delay(500); Serial.print("."); } Serial.println("\nWiFi接続完了"); // MTU値を設定(例: 1500バイト) wifi_set_mtu(WIFI_IF_STA, 1500); int newMTU = wifi_get_mtu(WIFI_IF_STA); Serial.printf("設定後のMTU値: %d bytes\n", newMTU); // MSS値を設定(例: 1460バイト) wifi_set_mss(WIFI_IF_STA, 1460); int newMSS = wifi_get_mss(WIFI_IF_STA); Serial.printf("設定後のMSS値: %d bytes\n", newMSS); if (WiFi.status() == WL_CONNECTED) { HTTPClient http; http.begin("http://example.com/large-data.txt"); // 1KB超のデータを返すURL int httpCode = http.GET(); if (httpCode > 0) { String payload = http.getString(); Serial.println("取得したデータ:"); Serial.println(payload); Serial.printf("データサイズ: %d bytes\n", payload.length()); } else { Serial.printf("HTTPリクエスト失敗: %s\n", http.errorToString(httpCode).c_str()); } http.end(); } } void loop() { }
このコードでは、wifi_set_mtu()とwifi_set_mss()関数を使用して、MTU値とMSS値を設定しています。MTU値を1500バイト、MSS値を1460バイトに設定することで、より大きなデータの送受信が可能になります。
ハマった点やエラー解決
実装中に遭遇する問題や、エラーの解決方法について記載します。
データ取得時のエラーメッセージの解釈
HTTP GETリクエストが失敗した場合、シリアルモニタにはエラーメッセージが表示されます。よくあるエラーメッセージとその解決策を以下に示します。
connection failed: WiFi接続に問題がある可能性があります。SSIDとパスワードが正しいか確認してください。timeout: リクエストがタイムアウトしました。MTU値やMSS値が小さすぎる可能性があります。これらの値を増やしてみてください。header too large: ヘッダーが大きすぎます。ヘッダーサイズを減らすか、MTU値を増やしてください。
設定変更後の動作確認方法
MTU値とMSS値を変更した後は、必ず動作確認を行う必要があります。確認方法は以下の通りです。
- 1KBを超えるデータを返すテストエンドポイントを作成する
- HTTP GETリクエストを送信し、取得したデータのサイズを確認する
- 期待したデータサイズが取得できているか確認する
もし依然として問題が解決しない場合は、ルーターやアクセスポイントのMTU設定も確認する必要があります。一部のネットワーク環境では、ESP8266側の設定だけでは不十分な場合があります。
解決策のまとめ
ESP8266WiFi.hで1KB超のHTTP GETができない問題を解決するための具体的な手順を以下にまとめます。
- 現在のMTU値とMSS値を確認する
- 必要に応じてMTU値を設定する(通常1500バイト程度)
- 必要に応じてMSS値を設定する(通常1460バイト程度)
- 設定変更後の動作確認を行う
これらの手順を実行することで、ESP8266で1KBを超えるデータを取得できるようになります。
まとめ
本記事では、ESP8266WiFi.hを使ったHTTP GETリクエストで1KB超のデータが取得できない問題と、その解決策について解説しました。
- 問題の原因: ESP8266のデフォルト設定におけるMTU値とMSS値が小さいことが原因
- 解決策: MTU値とMSS値を適切に設定することで、大きなデータの送受信が可能になる
- 確認方法: wifi_get_mtu()とwifi_get_mss()関数で現在の値を確認し、wifi_set_mtu()とwifi_set_mss()関数で設定を変更する
この記事を通して、ESP8266で大きなデータを扱う際の基本的なトラブルシューティング方法を学べたことと思います。今後は、より複雑なネットワーク環境での通信や、セキュリティを考慮した通信方法についても記事にする予定です。
参考資料
- ESP8266WiFi.h - ESP8266 Arduino Core Documentation
- MTU and MSS Explained - NetworkLessons.com
- ESP8266 Forum - HTTP GET request size limit
- TCP/IP Networking for Embedded Systems - Elektor Magazine
