はじめに (対象読者・この記事でわかること)
この記事は、プログラミングの知識はあまりないけれど、日々の業務でGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)アプリの繰り返し操作にうんざりしているビジネスパーソンや、手作業によるミスを減らして業務効率を向上させたいと考えている方を対象としています。
この記事を読むことで、Microsoftが提供する無料のRPAツール「Power Automate Desktop (PAD)」を導入し、GUIアプリの繰り返し作業を自動化する基本的な方法を理解できます。具体的には、PADのインストールから、基本的なフローの作成、そして実際のGUI操作を自動化するステップバイステップの手順を通じて、あなたの時間を大幅に節約し、生産性を向上させる第一歩を踏み出せるようになります。
前提知識
この記事を読み進める上で、特別なプログラミング知識は必要ありません。以下の基本的なPC操作ができればスムーズです。
- Windows OSの基本的な操作(ファイル、フォルダ、アプリケーションの起動と終了など)
- ウェブブラウザの基本的な操作(ウェブサイトの閲覧、フォームへの入力など)
GUIアプリの繰り返し作業はもう終わり!RPAで業務を劇的に効率化しよう
毎日、同じGUIアプリを開き、同じボタンをクリックし、同じデータを入力し、同じレポートを生成する――。このような繰り返し作業に、あなたの貴重な時間が奪われてはいませんか?手作業での入力は時間だけでなく、ヒューマンエラーの原因にもなり、作業者のモチベーション低下にも繋がりかねません。しかし、ご安心ください。これらの課題を解決する強力な味方が「RPA(Robotic Process Automation)」です。
RPAは、あたかも人間がPCを操作するように、ソフトウェアロボットが定型的な事務作業を自動で行う技術です。これにより、人はより創造的で戦略的な業務に集中できるようになります。そして、Windowsユーザーにとって最も手軽にRPAを始められるツールの一つが、Microsoftが無料で提供している「Power Automate Desktop (PAD)」です。
Power Automate Desktopは、プログラミング知識がなくても直感的なドラッグ&ドロップ操作で、デスクトップ上の様々なアプリケーション(Webブラウザ、Excel、Outlook、各種GUIアプリなど)の操作を自動化できるローコード/ノーコードツールです。Windowsとの親和性が高く、OSの基本機能やMicrosoft 365サービスとの連携もスムーズに行えます。この記事では、このPower Automate Desktopを使って、あなたの面倒なGUI繰り返し作業を自動化し、劇的な業務効率化を実現する方法を解説していきます。
Power Automate DesktopでGUI操作を自動化する具体的な手順
それでは、実際にPower Automate Desktopを導入し、GUI操作を自動化する手順を見ていきましょう。今回は「ウェブサイトから特定のデータを抽出し、Excelに書き込む」というシナリオを例に、ステップバイステップで解説します。
Power Automate Desktopのインストール
まず、Power Automate DesktopをPCにインストールします。
- Power Automate Desktopをダウンロードする:
- Windows 10/11ユーザーの場合、Microsoft Storeから「Power Automate Desktop」と検索してインストールできます。
- Microsoftの公式サイト(
https://powerautomate.microsoft.com/ja-jp/)からもダウンロード可能です。
- インストールと初期設定:
- ダウンロードしたインストーラーを実行し、画面の指示に従ってインストールします。
- 初回起動時にMicrosoftアカウントでのサインインが求められます。Microsoftアカウントを無料作成し、サインインしてください。
インストールが完了すると、Power Automate Desktopのメインコンソール画面が表示されます。
基本操作: フローの作成と実行
Power Automate Desktopでは、自動化したい一連の作業を「フロー」と呼びます。
- 新しいフローの作成:
- メインコンソール画面で「新しいフロー」ボタンをクリックします。
- フローの名前を入力し(例: 「Webデータ取得_Excel書き込み」)、作成ボタンをクリックします。
- フローデザイナーの画面構成:
- 新しいウィンドウが開かれ、これがフローを設計する「フローデザイナー」です。
- 左側: 「アクション」ペイン(利用できるアクションがカテゴリ別に表示されます)。
- 中央: 「ワークスペース」ペイン(アクションをここにドラッグ&ドロップしてフローを構築します)。
- 右側: 「変数」ペイン(フロー内で使用する変数を管理します)。
- アクションの配置と設定:
- 「アクション」ペインから必要なアクションをワークスペースにドラッグ&ドロップします。
- 各アクションをダブルクリックすると、詳細設定ダイアログが表示され、具体的な動作を設定できます。
- フローの実行:
- 画面上部の再生ボタン(▶)をクリックすると、作成したフローが実行されます。
- デバッグ実行(ステップ実行)も可能で、動作を確認しながら進められます。
GUI操作自動化のステップバイステップ例: Webサイトからのデータ取得とExcelへの書き込み
今回は、特定のウェブサイト(例:株価情報サイト)から株価情報を取得し、Excelファイルに記録するフローを作成します。
ステップ1: Webブラウザの起動とサイトへのアクセス
まず、目的のウェブサイトを開きます。
- Webブラウザの起動:
- 「アクション」ペインの「ブラウザー自動化」カテゴリから、「新しい Microsoft Edge を起動します」アクション(または使用したいブラウザのアクション)をワークスペースにドラッグ&ドロップします。
- アクション設定ダイアログで「初期URL」にアクセスしたいウェブサイトのURLを入力します(例:
https://example.com/stock)。 - 「詳細」オプションで「ウィンドウの状態」を「最大化」に設定すると、常にフルスクリーンで開くため、UI要素の特定が安定しやすくなります。
- 変数「
%Browser%」にブラウザインスタンスが格納されることを確認します。
ステップ2: Webページからのデータ抽出
次に、Webページから特定の情報を取得します。
- UI要素の追加と詳細の抽出:
- ブラウザが起動した状態で、「アクション」ペインの「ブラウザー自動化」カテゴリから「Web ページの詳細を抽出します」アクションをワークスペースにドラッグ&ドロップします。
- このアクションの設定ダイアログで「ライブ Web ヘルパーを起動します」をクリックします。
- 開いたブラウザ上で、抽出したい情報(例: 株価の数値、会社名など)にマウスカーソルを合わせ、
Ctrlキーを押しながらクリックします。- 複数の項目を抽出したい場合は、続けて
Ctrlキーを押しながらクリックしていきます。 - リスト形式のデータを抽出したい場合(例: 複数の銘柄とその株価)、最初の項目を
Ctrl+クリックし、次にリスト内の次の同じタイプの項目をCtrl+クリックすると、PADが自動的にリストとして認識しようとします。
- 複数の項目を抽出したい場合は、続けて
- 抽出したいデータがすべて選択されたら、「データの抽出を終了します」ボタンをクリックします。
- 抽出されたデータが設定ダイアログに表示されるので、列名などを確認し、「保存」をクリックします。
- 抽出されたデータは変数「
%ExtractedData%」にテーブル形式で格納されます。
ステップ3: 抽出データのExcelへの書き込み
抽出したデータをExcelファイルに保存します。
- Excelの起動:
- 「アクション」ペインの「Excel」カテゴリから「Excel の起動」アクションをワークスペースにドラッグ&ドロップします。
- 設定ダイアログで「新しいドキュメントで起動」を選択し、「保存」をクリックします。
- 変数「
%ExcelInstance%」にExcelインスタンスが格納されます。
- データをExcelワークシートに書き込む:
- 「Excel」カテゴリから「Excel ワークシートに書き込みます」アクションをドラッグ&ドロップします。
- 設定ダイアログで以下を設定します。
- 「Excel インスタンス」:
%ExcelInstance%(自動で選択されます) - 「書き込む値」:
%ExtractedData%(ステップ2で抽出したデータ) - 「書き込みモード」: 「指定したセル」を選択し、「開始列」をA、「開始行」を1に設定します。
- 「高度な設定」で「シートを消去する前に書き込みます」のチェックを外すことで、既存のデータに上書きではなく追記することも可能です。初回実行時はチェックを外しておくと便利です。
- 「Excel インスタンス」:
- 「保存」をクリックします。
- Excelファイルの保存と閉じ:
- 「Excel」カテゴリから「Excel を保存します」アクションをドラッグ&ドロップします。
- 「ドキュメントの形式」や「ドキュメント パス」を設定し、ファイル名(例:
C:\Data\stock_data.xlsx)を指定します。「保存」をクリックします。 - 「Excel」カテゴリから「Excel を閉じます」アクションをドラッグ&ドロップします。
- 「保存」をクリックします。
ステップ4: フローの保存と実行
- フローの保存:
- フローデザイナー画面上部のフロッピーディスクアイコン(保存ボタン)をクリックして、作成したフローを保存します。
- フローの実行:
- 再生ボタン(▶)をクリックして、フローを実行します。自動的にブラウザが開き、データが抽出され、Excelファイルに保存されることを確認します。
ハマった点やエラー解決: 安定しないUI要素とタイムアウト
Power Automate Desktopを使ったGUI自動化でよく遭遇する課題は、UI要素の特定が不安定になることや、アプリの応答が遅れてエラーになることです。
- UI要素の不安定さ: Webサイトのデザイン変更や、アプリのバージョンアップ、あるいは単にWebページの読み込み速度によって、PADが意図したUI要素(ボタン、テキストボックスなど)を見つけられない場合があります。特に、動的にIDが生成されるような要素はセレクターが壊れやすいです。
- タイムアウト: アプリケーションの起動やWebページの読み込みに時間がかかるとき、PADが次のアクションに進んでしまい、UI要素が見つからずにエラーになることがあります。
解決策
これらの問題には、以下のような対策が有効です。
- UI要素の安定化:
- カスタムセレクターの利用: PADは自動でセレクターを生成しますが、より頑健なセレクターを手動で編集できます。例えば、
id属性が動的な場合は、name属性やclass属性など、より普遍的な属性を利用するようにセレクターを調整します。UI要素を右クリックして「セレクターを編集」から調整可能です。 - 親要素の利用: 特定のUI要素が不安定な場合、その親となる安定したUI要素を基準に探しに行く設定にすると、見つけやすくなることがあります。
- カスタムセレクターの利用: PADは自動でセレクターを生成しますが、より頑健なセレクターを手動で編集できます。例えば、
- 待機アクションの活用:
- 「UI 要素を待機」アクション: 特定のUI要素が表示されるまでフローの実行を一時停止させます。これにより、UI要素がまだロードされていないのに操作しようとしてエラーになるのを防ぎます。
- 「待機」アクション: 指定した秒数だけフローを一時停止させます。ブラウザのページ遷移後など、UI要素の表示は待たないが、時間的な余裕が必要な場合に使います。
- エラー処理の導入:
- 「アクション」ペインの「フロー制御」カテゴリにある「エラー時」ブロックを利用します。これにより、特定のエラーが発生した場合に、フローを停止するのではなく、再試行したり、エラーメッセージをログに記録したり、代替処理を実行したりといった柔軟な対応が可能になります。例えば、3回まで処理をリトライする、エラー発生時はメールで通知するといった設定ができます。
- 各アクションの「エラー時の動作」設定で、「エラーを発生させる」のチェックを外し、「試行回数」や「試行間の待機時間」を設定することで、エラー時に自動的にリトライさせることも可能です。
これらの解決策を適切に組み合わせることで、より安定した自動化フローを構築できます。
まとめ
本記事では、WindowsにおけるGUIアプリの繰り返し処理を自動化する方法として、Microsoft Power Automate Desktop (PAD) を活用する手順を解説しました。
- 無料で手軽に始められる: Power Automate DesktopはMicrosoftアカウントがあれば無料で利用でき、誰でもRPAの恩恵を受けられます。
- 直感的な操作性: プログラミング知識がなくても、ドラッグ&ドロップとレコーダー機能で直感的にフローを構築できます。
- 業務効率化の強力なツール: 面倒な繰り返し作業から解放され、時間創出、人的ミスの削減、そしてより価値の高い業務への集中が可能になります。
この記事を通して、Power Automate Desktopの導入から基本的なフローの作成、そして実践的なGUI操作の自動化まで、一連の流れを理解し、あなたの業務にRPAを導入するきっかけとなれば幸いです。今後は、PADとクラウドフローの連携や、AI Builderを使ったより高度な自動化シナリオについても記事にする予定です。
参考資料
